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旭川地方裁判所 昭和41年(行ウ)5号 判決 1969年3月25日

原告 林継雄

被告 中富良野町長 森善治

右訴訟代理人弁護士 海老名利一

右指定代理人同町総務課長 岡田良之

<ほか二名>

主文

被告が昭和四一年五月二二日原告に対してした、原告の追加納付すべき昭和三七年度道民税三、二八〇円、村民税三、五四〇円とする賦課決定ならびに原告の追加納付すべき昭和三八年度道民税三、二八〇円、村民税二、二一〇円とする賦課決定をいずれも取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実および理由

第一、当事者双方の求めた裁判

一、原告

主文同旨の判決。

二、被告

訴却下の判決、しからずとするも「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二、当事間に争いのない事実

一、原告は北海道空知郡中富良野町(昭和三九年五月一日村を町とした。)内に住所を有する個人である。

二、原告は被告に対し、原告の昭和三七年度、昭和三八年度の各道民税・村民税につき、各法定期限内に前年の総所得金額を次表のとおり(詳細は別表1、2記載のとおり)申告したが、中富良野村(以下、「村」という。)は地方税法(以下、単に「法」という。)三一五条一号ただし書の規定によるとして、次表のとおり原告の総所得金額を認定し、被告はこれに基づいて道民税・村民税賦課決定(以下、「第一次賦課決定」という。)をし、原告に納税の告知をした。

年度

原告の申告した

総所得金額(円)

村の認定した

総所得金額(円)

道民税額(円)

村民税額(円)

納税告知日

三七

五五八、〇九五

六三八、四〇〇

三、四二〇

一四、九三〇

昭和三七年四月一四日

三八

六〇四、五四九

七一八、六〇〇

四、〇六〇

一八、三〇〇

昭和三八年五月一三日

三、ところが、村はさらに前法条の規定を適用して、次表のとおり原告の総所得金額を算定し、被告は昭和四一年五月二〇日原告に対し原告の追加納付すべき税額を決定し(以下、これを「第二次賦課決定」という)、同月二二日原告にこれを通知した。

年度

村の認定した前年の総所得金額(円)

以上に対する税額(円)

原告の追加納付すべき税額(円)

道民税総所得金額

村民税総所得金額

道民税

村民税

道民税

村民税

三七

六二二、七五四

七二二、七五四

六、七〇〇

一八、四七〇

三、二八〇

三、五四〇

三八

六五九、四二九

七五九、四二九

七、三四〇

二〇、五一〇

三、二八〇

二、二一〇

四、原告は右第二次賦課決定を不服とし、昭和四一年六月二〇日被告に対し異議申立をしたが、被告は同年七月一九日これを却下する旨を原告に通知した。

第三、争点

一、(被告の本案前の抗弁)

被告は第二次賦課決定につき法一条一項六号、一三条所定の納税通知書を原告に交付していないから原告は第二次賦課決定の取消を求める利益を有しない。よって、本件訴は却下すべきである。

二、(本案前の抗弁に対する答弁)

被告の原告に対してした第二次賦課決定は徴収権執行を前提とするものであるから、いまだ原告に納税義務が発生していないとしても、被告は時効により消滅するまでの間は何時でも徴収権を発動する可能性があり、原告はそれにより、何時、納税義務を負い、税を徴収されるかもしれないという危険性が存在している。したがって、原告には第二次賦課決定を取り消すについて利益がある。

三、(原告主張―第二次賦課決定の違法事由)

(一)  被告が申告した総所得金額につき被告が法三一五条一号ただし書による賦課決定をした後、増額更正するには法三二一条の二、一項の規定によらなければならないのに、被告はこれによっていない。

(二)  昭和三七年度道民税・村民税は、法一七条の五によれば、更正、決定又は賦課決定は法定納期限の翌日から起算して三年を経過した日以後においてはすることができないのに、被告は右規定に違反して右年度について第二次賦課決定をした。

(三)  原告には第二次賦課決定において追加納付すべきとされた道民税・村民税賦課額の対象となる所得がない。原告の所得は前記申告のとおりである。

四、(被告主張―違法事由に対する答弁)

(二) 法三二一条の二、一項は所得税の更正・決定があった場合に、市町村長がそれに従って税額を変更する場合に関する規定である。被告は法三一五条一号ただし書による増額をしたのであって、何ら違法はない。

(二) 昭和三七年度道民税・村民税については、昭和三八年法律八〇号附則六条の規定により、法一七条の五(昭和三八年法律八〇号により追加)の規定は昭和三九年四月一日前に法定納期限の到来した道民税・村民税については従前の例によるとされているので、法一七条の五の規定の適用はない。

(三) 原告の昭和三七、三八年度の各所得についての村の認定ならびにこれに基づいて被告が賦課した税額計算の経過は別表1、2、3、4のとおりである。

第四、証拠≪省略≫

第五、当裁判所の判断

一、(本案前の抗弁について)

前掲当事者間に争いのない事実と≪証拠省略≫によれば、被告は、昭和四二年五月二〇日第二次賦課決定に関する通知書を原告に交付したこと、右通知書は、「道民税・町民税賦課決定通知書」と題し、第一次賦課決定(第二、二のとおり)について所得税の申告過少を理由として、法三一五条一号ただし書(法三一五条一項一号ただし書とあるのは誤記と認める。)並びに町税条例三五条一項一号ただし書および旧町税賦課徴収条例二三条の五、一項一号ただし書の規定により賦課決定する旨およびその結果納付すべき税額は後記「表」のとおりになる旨ならびにこの通知の内容について不服があるときは異議の申立をすることができる旨が各記載されていること、そして、「課税標準額等および税額等の見積額」と題した「表」中には、見積られた所得金額および課税標準額ならびにそれに基づく年税額、既納税額およびその間の増加差額が、ついで同表中の「納付すべき税額」欄には右増加額(第二、三の表中、「原告の追加納付すべき税額」欄記載の額の合計額)が各記載されていることが認められ、以上の認定に反する証拠はない。

ところで、右通知書には、納期、納期限までに税金を納付しなかった場合に執られるべき措置、納付の場所等の記載を欠いているので、法により納税通知書に記載を要するとされている事項(法一条一項六号参照)のすべてが漏れなく尽くされているとは必ずしもいえないけれども、右に述べたその表題、記載事項およびその体裁からみれば、それが法三一五条一号ただし書を根拠とする被告の原告に対する納税の告知であることは一見して明白であるから、右通知書の交付が、納税の告知として瑕疵のないものであるかどうかはともかくとして、これをもってしても、未だ法一三条所定の納税の告知としては不存在であるということは到底できない。そして、いやしくも納税の告知によって徴税権者の徴税意思が納税義務者に告知された以上、それが法律上の根拠を有するものかどうかにかかわりなく、納税義務者とされた者において、当該課税処分の瑕疵を指摘してその取消を求める利益を有するといわなければならない。

してみると、前記賦課決定通知書が納税通知書としての効力を有しないことを前提とする被告の主張は理由がない。

二、(取消事由)

法三一五条は、市町村が当該市町村に住所を有する個人に対し、納付すべき市町村民税の基礎となる同人の総所得金額を算定するには、第一次的にはその者が所得税に係る申告書に記載した額、又は政府が更正若しくは決定した額によることとし、第二次的に、それら申告、更正、決定に係る額が過少と認められる場合、又はその者が所得税に係る申告書を提出せず、しかも政府が決定もしない場合には、自ら調査し、その調査に基づいて行なう旨を定めている。したがって、市町村は、所得税に係る申告が過少であると認めたときは、自ら調査し、その結果に基づいて総所得金額を増額算定することができる(個人の道府県民税の賦課徴収については法四一条により市町村民税の例によるとされている。)。

ところで、そのように自らの調査により賦課決定した後、更に自らの調査により、課税標準額又は納付すべき税額に過不足があるとして賦課処分をすることができるかについて、地方税法は三二一条の二、一項において、市町村長は所得税の納税義務者の提出した修正申告書又は政府がした所得税の更正若しくは決定に関する書類により、その賦課した税額を変更し、又は賦課する必要を認めた場合に不足額を追徴しなければならない旨定めるほか、法人の道府県民税・市町村民税等特定の税目につき更正できる旨定めたような規定(法五五条三項、三二一条の一一、三項等、なお国税通則法二四ないし二六条参照)を特に設けていない。

このような地方税法の規定によれば、市町村長が個人の市町村民税について賦課額を変更できるのは、法三二一条の二、一項に定める場合、すなわち、所得税に関する申告、更正、決定額に合致せしめる場合に限ると解するのが相当である。

してみると、その余の主張について判断するまでもなく、被告の原告に対してした第二次賦課決定は法律上の根拠を欠き違法なものといわざるを得ない。

三、(結論)

よって、原告の請求は理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 平田孝 裁判官 橘勝治 田中康久)

<以下省略>

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